こどもとおとなのクリニック「パウルーム」

2023年春、設計・デザインをさせていただいたクリニックが東京青山外苑前に完成いたしました。小児クリニックですが、受診される子供さんだけでなく、そのご家族に寄り添い、「体」と「心」の健康を様々な形で提供するユニークなクリニックです。

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新たな形で小児医療を行うことのできる「まだどこにもないクリニック」

<それは、治癒だけでなく、こどもとおとなすべての人の体と心が安心できる環境も提供するクリニック>

<医療はどうあるべきか、常に10年後の未来を考え、実行し、発信するー
そんな場所を提供するクリニック>

クリニック院長である黒木春郎先生、そしてクリニック室長であり公認心理士の黒木秀子先生、お二人の長年の思いをかなえる空間を創るということが私たちのミッションでした。

 

そんなお二人の思いがカタチになったのが「図書室の中のクリニック」です。

 

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スペインの読書セラピー「アニマシオン」などの読書教育を学校や医療の場で実践・普及されてきた秀子先生の経験と思いは、医療・教育・地域というテーマを包括して子供たち(そして親御さんたち)をサポートできる場所として「本たちと対話できる、本たちに癒される」空間を創ることへと帰結していきました。

 

春郎先生が最初に表現された言葉は「精霊の森」

森の中にある時間を経た館の中にある書斎のように
時間の流れの中で生まれた本たちとの空間は
疲れた心、イライラする心を癒してくれる
精霊の森にいるようにエネルギーを与えてくれる

そして、

精霊の森x本xクリニック

という、まだどこにもないコンセプトが誕生したのです。

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「まっ白い空間」

コンセプトを詰めていく中で、秀子先生が希望した空間のイメージは

―まっ白い、不思議だけれど暖かい空間―

これが一番難しいミッションだったかもしれません(笑)

なぜなら、、、

「精霊の森」といってもクリニックの空間に植物は置くべきではないと、秀子先生。なぜなら、アレルギーがある子供たちも(おとなも)いるからです。

青山外苑前交差点という都会の喧騒から、クリニックに入ると、安心する、守られた世界が広かる。そんな森の木漏れ日のような暖かい空間を創らねばいけません。しかも真っ白な!

とにかく、ストイックに真っ白の空間がいいと主張された秀子先生。
―白い宇宙船みたいな空間。そこに色を添えるものは、本と人だけ。あとは、真っ白―

とにかく、
―まっ白い、不思議だけれど暖かい空間―

そんな空間を表現するために特に照明コンセプト・テキスタイル・スクリーンの使い方は最後まで熟考しました。

 

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天井にぷかぷかと浮かぶ丸い照明やトイレ横の手洗い場の鏡など、控えめですが、遊び心を生かした「不思議な」デザインも見え隠れします。

窓には大きさの違うスクリーンでランダムにレイヤーをつくり、森の木漏れ日のような光の通し方をするデザインにしました。

この様にこだわったデザイン・材料・機能の希望を実現してくれた日本での施工デザインチーム、空閑さん(Pleasure Garden & Living), 寺田さん(株式会社ワンダフル)、そして現場の皆さんには本当に感謝をしています。

ロゴ・サインも、シンプルで優しいクリニックのビジョンにあったデザインを一緒に創ってくださったグラフィックデザイナーの野口礼子さんにもお礼を申し上げます。

 

902の空間を使い切る

場所は外苑前交差点を見下ろすビルの6階。エレベーターが開くとそこのフロアーすべてがクリニックです。

エントランスの自動ドアや奥にある非常階段へのドアにはお子さんが出てしまわない様、安全性に配慮した仕掛けを施しました。

 

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エントランスドアを入ると待合室です。白い空間は、柔らかな光が入り、「森の音」がかすかに聞こえ、都会の喧騒を忘れる、ほっとする不思議な空間です。と同時に、たくさんの本たちが目に入ります。そう、ここは図書室でもあり、受診される方は子供も大人も皆が本と触れ合える場所。休診の時はアニマシオンなどのセミナーが開かれる場所でもあります。

診療と本貸し出し、両方の機能を持つ受付レセプションは、ちいさいお子様が頭などをぶつけない様に角や出っ張ったところをなくしました。

図書室(待合室)を進むと左に診察室そして右に相談室の入り口が本の森(本棚)のなかに隠れています。「精霊の森」のなかにある小さな家のように。

 

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90m2というフロアーのなかに、必要なクリニックの機能が納めてあります。衛生的であること、安全であること、受診者が落ち着いて診療してもらえること。診療スタッフ側の導線、患者さんの導線が交差しないように。

決して広い空間ではありませんが、診察のプライバシーを尊重しながらも、クリニックの空間が奥まで繋がるようなデザインを心掛けました。本たち、そして天井を柔らかに照らすLEDのライン照明は流れるように空間を奥まで繋いでいます。

おむつを替えたり、子供さんのおトイレに同伴したり、なるべく待つことのないようにあえてトイレは2か所設けました。クライアントからの要望で、廊下にこどもも使うことを考慮した高さの低い手洗いシンク。空閑氏作の様々な大きさの丸い鏡がバブルのように配置されている少し遊び心のあるスペースです。トイレのピクトグラムも遊び心の入ったエレメントです。子供もおとなも楽しめるように。

 

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様々な分野の専門家と専門システムで作り上げたプロジェクト

小児医療・臨床心理の専門家である院長ご夫妻の指揮のもと空間づくりをサポートさせていただいたのは、その道の専門家たちです。

図書室の本選択・プロデュースは学校司書の横山寿美代氏。本の貸し出しはOPACというオンライン蔵書目録検索システムを導入、誰でも蔵書が見られるようになっています。

本棚制作は多くの図書館に製品を納めている株式会社キハラ。地震で倒れない、本が落ちてこない本棚を使うという安全性にもとことんこだわっています。

ハイレゾリューションシステムにより録音した「森の原音」を再生することにより森の空気感を再現するという、ヒーリング効果のある音響空間システム「R-LIVE」を導入。実際の植物はないが、音響により静かな「精霊の森」にいると感じることが出来る空間を作り出す役割の一つを担っています。

 

リトグラフに込められた思い

プロジェクトが始まって2回目のコンセプト・ミーティング。

私たちはこのようなミーティングをワークショップと呼んでいます。クライアントとをはじめ、プロジェクトに参加する人がチームとなり一緒に考えて議論をするからです。

設計の前に、クライアントがどのような思いを形にしたいのかを、一緒にクリアーにし共有させていただくためにとても大切なプロセスです。

新しいクリニックに置きたいものを4つ挙げてください、という質問に院長先生ご夫妻はこう答えてくださいました。

「リトグラフ」「ルルドの聖母」「音楽」「サムシング・オールド」

―今のクリニックにかけてあるリトグラフを新しいクリニックに持っていきたい。

北川民治氏の母と子のリトグラフです。

そのリトグラフには院長先生ご夫妻の今までの、そして、これからの活動の芯となる思いが込められています。これを皆が見えるところに飾りたいとのご希望でした。

現場が仕上がるのを待ち、ご一緒に空間をみて、どこからも見える場所を見つけて飾りました。

―「ルルドの聖母」は春郎先生が診察室に置いていらっしゃるマリア様です。お二人が2008年に医療法人を設立した時、「嗣業の会」と名付けました。「嗣業」とはキリスト教で「神によって与えられた財産、次世代へと受け継がせていくべきもの」と言う意味があるということをお二人から教えていただきました。

―「音楽」も大切なエレメントの一つと秀子先生。「森を感じる」R-LIVE導入も秀子先生のアイデアであるのは言うまでもありません。

―「サムシング・オールド」何かまだわからないけど、なにか思い出のあるものを持っていきたい。当初はお父様の古い診察机を考えていらっしゃいました。歴史を引き継いでいくことの大切さを分かっていらっしゃるのだなあと思いました。まさしく「嗣業」です。

お施主様である院長先生ご夫妻、そしてそのビジョンを実現するために最後まで駆け抜けてくれた専門家チーム、この素晴らしいご縁でこんな素敵なプロジェクトが完成しました。感謝の気持ちでいっぱいです。この「図書室の中のクリニック」が年代を超えていつまでも多くの皆さんに愛される存在になればとても嬉しいです。

 

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DATA

プロジェクト
こどもとおとなのクリニック「パウルーム」   URL: https://pauroom.jp/
東京都港区北青山2-13-4青山MYビル6階

クライアント
医療法人社団嗣業の会

設計・デザイン
MIYAKO NAIRZ ARCHITECTS (美矢子ナイルツ一級建築士事務所)

コーディネート
株式会社プレジャーガーデン&リビング

現場管理・施工
株式会社ワンダフル

ロゴ・サイン
野口礼子

写真
株式会社125 河合克成
+ MiyakoNairzArchitects

 

* 写真は家具(机・椅子・診療ベッドなど)が入る前のものです。